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松山地方裁判所 平成5年(行ウ)1号 判決

愛媛県西宇和郡三瓶町大字二及二番耕地七〇三番地

原告

浜田海運株式会社

右代表者代表取締役

濱田二

右訴訟代理弁護士

西島吉光

愛媛県八幡浜市下松蔭一〇九六番地四

被告

八幡浜税務署長 三谷博之

右指定代理人

栗原洋三

東野昇

白石国夫

岡田武夫

吉本真敏

石丸邦彦

藤本義文

吉原幸昭

大西道臣

堤正人

宮井雅規

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一原告の請求

原告の平成元年九月一日から平成二年八月三一日までの法人税について、被告が平成三年七月一日付けでした更正処分のうち、所得金額一億六七九八万四八四一円を超える部分、並びに重加算税賦課決定及び青色申告承認取消処分を、いずれも取り消す。

第二事案の概要

本件は、原告が、船舶を売却したことによる所得について、売買代金の内訳(船体価額と建造引当権価額)につき、誤って、真実とは逆の価額が記載された船舶売買契約書が作成されたことを奇貨として、租税特別措置法の適用(圧縮特別勘定の繰入)による過大な損金を計上し、本件事業年度の法人税の申告を行ったとして、被告税務署長から、法人税の更正や青色申告承認取消等の処分を受けたため、その取消しを求めた事案である。

一  前提となる事実(争いのない事実)

1  本件船舶売買契約の締結等

原告は、一般貨物や液体燃料等の海上輸送等を業とする株式会社であり、その法人税の申告について、青色申告の承認を得ていたものである。

ところで、原告は平成二年三月一〇日、小村汽船株式会社(以下「小村汽船」という。)及び明和汽船株式会社(以下「明和汽船」という。)に対し、原告が船舶整備公団と共有する油送船(内航船舶)汽船乾隆丸(以下「本件船舶」という。)を、代金九億五〇〇〇万円で売却する旨の契約(以下「本件売買契約」という。)を締結した。

なお、船舶整備公団が本件船舶を持分一〇分の七を有していたのは、同公団が原告に対して有していた貸付金債権を担保するためであり、同公団も、後日本件売買契約を承認している。

2  本件更正処分等に至る経緯

(一) 法人税の申告

(1) 原告は平成二年一〇月三一日、平成元年九月一日から平成二年八月三一日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税につき、次のとおり確定申告をした。

〈1〉 所得金額 一億六七九八万四八四一円

〈2〉 法人税額 六九〇四万六六〇〇円

(2) 原告は、右確定申告にあたり、本件船舶売買代金の内訳を、船体価額六億二二〇〇万円、建造引当権ないし解撤権価額(後記一の3参照)三億二八〇〇万円とし、租税特別措置法六五条の八(平成三年法律第一六号による改正前のもの。以下同じ。)に基づき、本件船舶売買代金のうち、船体価額(六億二二〇〇万円)に対応する「圧縮特別勘定」(後記一の4参照)繰入額二億五一三万三七四四円を、損金に算入して申告した。

(二) 本件更正処分等

これに対し、被告は、本件船舶売買代金の内訳を、前記申告額とは反対に、船体価額三億二八〇〇万円、建造引当権価額六億二二〇〇万円と認定し、原告が、右認定に係る船体価額三億二八〇〇万円に対する圧縮特別勘定繰入限度額一五九三万八一七六円と、前記申告に係る圧縮特別勘定繰入額二億五一一三万三七四四円との差額、二億三五一九万五五六八円を過大に損金に計上したとして、平成三年七月一日付けで、次のとおり更正並びに重加算税の賦課決定、及び青色申告承認取消処分(以下「本件更正処分等」という。)を行った。

(1) 更正

〈1〉 所得金額 四億〇三一八万〇四〇九円

(申告額に二億三五一九万五五六八円を加算した金額)

〈2〉 法人税額 一億六九〇二万三七〇〇円

(2) 重加算税三四九八万九五〇〇円の賦課決定

(3) 本件事業年度以降の青色申告承認の取消し

(三) 異議申立て、審査請求

原告は、本件更正処分等につき、平成三年八月二日被告に対し異議申立をしたが、同年一〇月二八日棄却の決定がなされたため、平成三年一一月二七日国税不服審判所長に対し審査請求をしたが、平成四年一一月一九日右審査請求を棄却する旨の裁決がなされた。

3  建造引当権(解撤権)の意義

内航海運業においては、過当競争を排除して、その近代化と合理化を図るために、内航海運業法の規定により、船腹量の最高限度制と許可制が採られており、内航海運業の用に供する船舶(内航船舶)の建造等をしようとする内航海運業者は、内航海運組合法の規定に基づき運輸大臣の許可を受けて定めた日本内航海運組合総連合会船腹調整規程に基づき、予め右総連合会の承認を得なければならない。

そして、昭和四一年六月以降現在に至るまで、所有船舶の解撤等を引当てに代替船舶の建造等を認めるという基本方針が採られていることから、内航船舶の解撤等による代替船舶の建造等の権利が、売買の対象とされるようになった。

この解撤等による代替船舶の建造等の権利のことを、建造引当権ないしは解撤権と称し、建造引当権の対価が授受された場合、課税上の取扱いとしては、この建造引当権価額を船体価額とは区別し、船舶売買代金のうち建造引当権価額分につていは、租税特別措置法六五条の八の適用はないものとして、取り扱われている【昭和五三年七月六日付け国税庁直税部長通達(直審四-二三、直審三-一四一、直審五-一〇)〔乙九〕参照】。

4  圧縮特別勘定の意義

租税特別措置法六五条の八は、特定の資産を譲渡した場合、その譲渡をした日の属する事業年度内には買替資産を取得することはできないが、その翌事業年度開始の日から一定期間(原則として一年)内に特定の買換資産(本件の場合は船舶に限られる。)の取得をする見込みであり、かつ、その取得の日から一年以内にその買換資産に係る地域内において事業の用に供する見込みであるときは、譲渡資産の対価額のうち、その買換資産の取得に充てようとする額に、差益割合(譲渡資産の対価のうちに、当該対価の額から当該資産の譲渡直前の帳簿価額等を控除した金額の占める割合をいう。)を乗じて計算した金額の八〇パーセントに相当する額を、その事業年度の確定した決算において、他の勘定と明確に区分経理したときには、区分経理した金額をその事業年度の損金の額に算入することを認めている。

この区分経理の科目の総称が圧縮特別勘定である。

二  被告の主張

1  本件更正の適法性

原告は、本件船舶売買代金の内訳が、真実は、船体価額が三億二八〇〇万円で、建造引当権価額が、六億二二〇〇万円であるのに、誤って、右内訳とは逆の金額が記載された契約書(乙五、以下「甲契約書」という。)が作成されたことを奇貨とし、本件事業年度の会計帳簿に、甲契約書の記載どおり、売買代金の内訳を、船体価額が六億二二〇〇万円で、建造引当権価額が三億二八〇〇万円であると記載した上、租税特別措置法六五条の八に基づき、本件船舶の売買代金のうち、船体価額を六億二二〇〇万円に対応する圧縮特別勘定繰入額、二億五一一三万三七四四円を損金の額に算入して、本件事業年度の法人税の確定申告をした。

なお、買主側代表者・代理人(小村汽船代表取締役・明和汽船代理人)の小村進は、甲契約書に調印後、甲契約書に記載された売買代金の内訳の誤りに気付き、売買仲介人水井禮司に連絡して、後日、真実の内訳が記載された契約書(乙六、以下「乙契約書」という。)を作成させた上、原告代表者濱田二とともに記名押印している。

したがって、原告は、右圧縮特別勘定繰入額二億五一二三万三七四四円と、真実の船体価額に対応する圧縮特別勘定繰入限度額一五九三万八一七六円との差額、二億三五一九万五五六八円を損金として過大に計上したものである。

したがって、原告の本件事業年度の正当な所得金額は、確定申告に係る所得金額一億六七九八万四八四一円に、損金の額に算入できない額二億三五一九万五五六八円を加算した四億〇三一八万〇四〇九円であり、右正当な所得金額を前提になされた本件更正は適法である。

2  重加算税賦課決定、青色申告承認取消処分の適法性

原告は、真実は、乙契約書記載のとおり売買代金内訳が合意されたのに、誤って、これとは逆の売買代金内訳が記載された甲契約書が作成されたことを奇貨として、会計帳簿に甲契約書記載の売買代金内訳を記載し、本件事業年度の法人税の申告を行ったものである。

したがって、原告は、重加算税賦課の要件である「税額等の計算の基礎となるべき事実の一部を仮装したところに基づき、納税申告書を提出していた」もの(国税通則法六八条一項)に当たるとともに、青色申告承認取消の要件である「その事業年度に係る帳簿書類に、取引の一部を仮装して記載し」たもの(法人税法一二七条一項三号)に当たる。

三  原告の反論

1  本件更正の違法性について

(一) 本件船舶売買代金の内訳は、濱田二(売主側)と小村進(買主側)との間で、甲契約書に記載されたとおり、船体価額が六億二二〇〇万円で、建造引当権価額が三億二八〇〇万円と合意されたものである。即ち、

(1) 本件船舶売買代金について、濱田二と小村進との間では、代金総額を九億五〇〇〇万円とすることが合意されたのみで、その内訳については、仲介人木村親光・一樹が適当に決めた価額を、甲契約書に記載したものに過ぎない。

(2) そして、甲契約書の作成にあたっては、仲介人木村親光・一樹において、濱田二と小村進らの面前で内容を全文朗読の上、両当事者が記名捺印したものである以上、本件船舶売買代金の内訳は、甲契約書の記載どおりに合意されたとみるべきである。

(二) 乙契約書は、本件船舶売買契約成立後に、船舶整備公団から本件船舶売買の承認を得る目的で、作成された契約書の一部をそれぞれコピーし、それをつなぎ合わせて複写されたものであり、右複写に使用された二通の契約書は、平成二年三月三一日頃、船舶整備公団に提出する多数の書類とともに、濱田二が原告代表者として記名押印し、仲介人木村一樹を通じて木村進に交付したものであって、濱田二は、右契約書に記名押印するに当たり、船価売買代金の内訳が変更された、との説明を受けていない。

したがって、乙契約書(写し)或いはその作成に使用された契約書は、船舶整備公団の承認を得るためだけの目的から作成されたもので、原告と小村汽船・明和汽船との債権債務関係の内容を定める目的で作成されたものではないから、乙契約書により、本件船舶の売買代金の内訳を認定することはできない。

(三) したがって、原告が、本件船舶売買代金の内訳を、船体価額が六億二二〇〇万円で、建造引当権価額が三億二八〇〇万円と会計帳簿に記帳した上、租税特別措置法六五条の八に基づき、本件船舶売買代金のうち、船体価額分六億二二〇〇万円に対応する圧縮特別勘定繰入額二億五一一三万三七四四円を損金の額に算入して、本件事業年度の法人税の確定申告をしたことは正当であり、右申告を認めなかった本件更正は違法である。

2  重加算税賦課決定、青色申告承認取消処分の違法性について

仮に、本件船舶売買代金の内訳が、船体価額が三億二八〇〇万円で、建造引当権価額が六億二二〇〇万円であると認められ、甲契約書に記載された売買代金の内訳が誤りであったとしても、原告は、甲契約書記載の売買代金の内訳が真実であると誤信して、本件事業年度の確定申告をしたものであり、事実を仮装したものではないから、本件重加算税賦課決定及び青色申告承認取消処分は違法である。

四  争点

1  本件更正の適法性について

本件船舶売買代金の内訳は、乙契約書記載のとおり、船体価額が三億二八〇〇万円、建造引当権価額が六億二二〇〇万円と合意されたか。

2  重加算税賦課決定、青色申告承認取消処分の適法性について

本件船舶売買代金の内訳が右1のとおり認められる場合、原告が、甲契約書記載の代金内訳に従い会計帳簿を作成し、確定申告をしたことについて、「事実の一部を仮装したところに基づき納税申告書を提出」したもの(重加算税賦課要件)、「帳簿書類の取引の一部を仮装して記載」したもの(青色申告承認取消要件)と認められるか。

第三争点に対する判断

一  争点1(本件更正の適法性)について

1  認定事実

(一) 本件売買契約の締結等

証拠(甲一一、一四、一七、乙一、七の1・2、証人小村進、証人木村一樹〔一部〕、原告代表者本人〔一部〕によると、次の事実が認められる。

(1) 原告は、昭和六二年三月、本件船舶(総トン数六九九トン、夏期積載総重量トン数二二九九・八五二立法メートル)を、三億六〇八八万四三三二円で新造・取得し(乙一の29枚目の固定資産の増減内訳書参照)、これを日新タンカー株式会社に傭船させて傭船料収入を得ていたが、平成元年末頃から、船舶売買仲介業者の木村親光・一樹父子に本件船舶売却の仲介を依頼し、同年三月初め頃、同じく仲介業者である水井船舶商事(水井禮司)を通じ、共同買主として小村汽船・明和汽船の紹介を受けた。

(2) しかして、平成二年三月一〇日松山市内にある木村親光の事務所に、原告代表者濱田二、売主側仲介人の木村親光・一樹、小村汽船代表者(兼明和汽船代理人)の小村進、買主側仲介人の水井禮司が集まり、本件船舶の売買交渉を行った。小村汽船の代表者は小村進であり、明和汽船の代表者は小村朋孝であるが、小村朋孝は小村進の息子であり、小村進が明和汽船の事実上のオーナーであった。当初は、原告側の売買希望価額は九億八〇〇〇万円であり、小村汽船・明和汽船側の売買希望価額は九億三〇〇〇万円であった。

(3) そこで、小村進が濱田二や木村親光・一樹に対し、売買希望価額九億三〇〇〇万円の根拠について、本件船舶の建造引当権は、一立法メートル当たりの相場二七万円に、二三〇〇立法メートル(本件船舶の積載総重量トン)を乗じた金額、六億二一〇〇万円位が相当であり、本件船舶の船体価額は、本件船舶と同規模・程度の新造価額や、本件船舶の残存見込み耐用年数を考慮すると、三億〇九〇〇万円程度が相当であるから、その合計額である九億三〇〇〇万円が妥当である旨、説明した(証人小村進の証人調書三丁表一二行目から四丁表三行目、同四丁目裏九行目から五丁表三行目、同二〇丁表一行目から同裏四行目、同二三丁裏四行目から二四丁表一二行目)。

(4) このようにして、売主側(濱田二)と買主側(小村進)は、仲介人も交えて売買価額について交渉を重ね、お互いに譲歩した結果、前同日、本件船舶の売買代金総額九億五〇〇〇万円で合意に達した。そして、その内訳については、濱田二が小村進に任せると述べたので、小村進の提案により、船体価額を三億二八〇〇万円、建造引当権価額を六億二二〇〇万円とすることで、原告(売主)側と小村汽船・明和汽船(買主)側とで、合意した(証人小村進の証人調書五丁表七行目から同裏二行目、同四六丁目表一一行目から四七丁表(八行目)。

(二) 甲・乙・丙・丁契約書の作成等

証拠(甲一七・一八・乙五・六・八、証人小村進、証人木村一樹〔一部〕、原告代表者本人〔一部〕)によると、次の事実が認められる。

(1)  本件船舶売買契約については、以下のような経過を経て、四通の売買契約書(乙五〔甲契約書〕、乙六〔乙契約書〕、乙八〔丙契約書〕、甲一八の17・18枚目〔丁契約書〕)が作成されているが、売買代金の内訳については、甲契約書の内容は誤って記載されたものであり、乙・丙・丁契約書の内容が正しい。即ち、

(2)  甲契約書(乙五)

木村一樹の妻は、平成二年三月一〇日木村親光の事務所において、木村一樹から命じられて、甲契約書の印刷部分以外の本文を清書した。

木村一樹の妻は、本件船舶の売買交渉の場には立ち会っておらず、交渉が行われた部屋とは別の部屋で、木村一樹に命じられて、甲契約書の本文を清書したのであり(証人木村一樹の平成六年三月一一日付け本人調書七項、原告代表者本人の平成六年一七日付け本人調書一五丁裏一行目から末行目)、本件船舶売買代金の内訳について、船体価額を三億二八〇〇万円、建造引当権価額を六億二二〇〇万円と記載すべきところ、誤って、船体価額を六億二二〇〇万円、建造引当権価額を三億二八〇〇万円と、逆に記載してしまったのである。

濱田二・小村進・木村父子・水井禮司らは、甲契約書の売主・買主・仲介人欄にそれぞれ記名捺印したが、誰もその内容を朗読するようなこともなかったため(原告代表者本人の平成六年一七日付け本人調書一六丁表八行目から同裏一〇行目)、誰一人として、売買代金の内訳の誤りには気付かなかった。

小村進が、松山から広島への帰りのフェリーの中で、甲契約書では、船体価額と建造引当権価額が逆になっていることに気付き、水井禮司に本件売買契約書の訂正を依頼し、水井禮司から木村親光・一樹を通じて濱田二に対し、甲契約書が返還された。したがって、小村進は現在甲契約書の原本を所持していない。

(3)  乙・丙契約書(乙六・八)

木村一樹は、水井禮司から、甲契約書の売買代金の内訳が誤っていることを指摘され、また、船舶整備公団提出用の契約書作成を依頼されたことから、妻に命じて、もう一度、本件船舶売買契約書(二通)の本文を清書させ、今度は、船体価額が三億二八〇〇万円、建造引当権価額が六億二二〇〇万円と正しく記載された、乙・丙契約書を作成した。

乙契約書は、甲契約書の売買代金の内訳を訂正するためのもので、売買当事者が将来にわたり保存しておく正式の契約書であり、丙契約書は、船舶整備公団に本件売買契約を承認してもらうため、船舶整備公団に送付するために必要な契約書類である。そのため、乙契約書には、二〇万円の収入印紙が貼付され、丙契約書には、第一三条の特約欄に、「本件契約は、本船の譲渡・譲受が船舶整備公団において承認された後、発効するものとする」との特約が付された。

木村一樹は、平成二年三月末頃濱田二宅に出向き、濱田二に乙・丙契約書の売主欄に原告の記名捺印をしてもらい、更に、同年四月一〇日(本件船舶の引渡日)、乙・丙契約書を持参して広島まで出向き、小村進に乙・丙契約書を直接交付した。そこで、小村進が、乙・丙契約書の買主欄に小村汽船・明和汽船の記名捺印をして、乙・丙契約書を完成させた。そして、乙・丙契約書の原本は小林進が保管し、小林進から木村一樹を通じて濱田二に対し、乙・丙契約書のコピーが交付された。

(4)  丁契約書(甲一八の17・18枚目)

小村進は平成二年四月中旬頃、収入印紙二〇万円を節約するため、乙契約書コピーの当事者欄と、丙契約書コピーの本文とを張り合わせたうえ、これを複写して丁契約書を合成し、丁契約書を他の関係書類とともに船舶整備公団に提出して、本件船舶売買契約について、船舶は整備公団から承認を取り付けた。

現在でも、船舶整備公団には、丁契約書(写し)が他の関係書類とともに保存されている。

2 前記認定の補足説明

本件船舶売買代金の内訳は、船体価額が三億二八〇〇万円、建造引当権価額が六億二二〇〇万円と合意されたものであり、甲契約書の記載が誤っており、乙契約書の記載が正しいことは、以下説示する各事実からも裏付けられるのであり、右認定に反する証人木村一樹及び原告代表者本人の各供述中、右認定に反する部分は信用できない。

(一) 船体価額の取得価額・帳簿価額との対比

原告は昭和六二年三月に、本件船舶を三億六〇八八万四三三一円で新造・取得しており、本件売買契約がなされた平成二年三月当時の本件船舶の帳簿価額は、二億九八〇七万七一九四円であったから、乙一の29枚目の固定資産の増減内訳書参照)、乙契約書の船体価額三億二八〇〇万円と、本件船舶の取得価額・帳簿価額とは、概ね整合性が保たれている。

これに対し、甲契約書の船体価額六億二二〇〇万円では、取得価額三億六〇八八万四三三二円よりも二億六一〇〇万円余りも高額な船体価額であり、帳簿価額二億九八〇七万七一九四円よりも三億二四〇〇万円弱も高額であって、このように、本件船舶の取得価額・帳簿価額よりも著しく高額な価額でもって、本件船舶売買代金の内訳が合意されたものとは認められない。

(二) 建造引当権価額の相場との対比

本件船舶売買当時(平成二年三月)の油送船の建造引当価額の相場は、夏期積載総重量一立法メートル当たり二四万五〇〇〇円であった。(乙七の1・2)から、これに、本件船舶の引当立法メートルに相当する二三〇〇立法メートルを乗じて算出すると、五億六三五〇万円となり、乙契約書の建造引当権価額を六億三二〇〇万円と、概ね整合性が保たれている。

これに対し、甲契約書の建造引当権価額三億二八〇〇万円では、相場価額と比例して二億円余りも低額であり、このような時価相場よりも著しく低額な建造引当権価額でもって、本件船舶売買代金の内訳が合意されたものとは認められない。

(三) 甲・乙・丙・丁契約書の存在

当初、売買代金の内訳が誤って記載された甲契約書が作成され、甲契約書の売買代金の内訳を訂正するため乙契約書が作成され、更に、船舶整備公団提出用として丙契約書が作成され、その後、収入印紙を節約するため、乙契約書と丙契約書を合計した丁契約書が作成されて、丁契約書の写しが船舶整備公団に送付されたものである。

だからこそ、小村汽船、明和汽船側は、現在、不要となった甲契約書の原本も写しも所持しておらず、乙・丙契約書の原本を所持しているのであり、船舶整備公団も、現在、丁契約書の写しを保管しているのである。

乙契約書の印紙は本物であるのに対し、甲契約書の印紙は、印紙をコピーしたものを張り付けたものであることや、甲契約書の買主欄には小村汽船の記名捺印しかないのに対し、乙契約書の買主欄には小村汽船・明和汽船両社の記名捺印があることからも、売買当事者間で最終的に確認された正式の契約書が、乙契約書であることが裏付けられる。

これに反して、もし原告が主張するように、甲契約書の売買代金の内訳が正しく、乙・丙・丁契約書の売買代金の内訳が誤っているのであれば、乙・丙・丁契約書が存在することについて、合理的な説明は困難である。この点につき、原告としても種々の説明を試みているが、いずれの説明も、当裁判所を納得させる合理的なものとは評価し難い。

(四) 売買代金の内訳合意について

原告は、小村進との間で代金総額について合意しただけで、代金の内訳については、濱田二と小村進との間で合意せず、仲介人において適当に決めたものである旨主張する。

しかし、内航船舶の売買代金のうち、船体価額は圧縮特別勘定繰入の対象として損金に算入できるのに対し、建造引当権価額は、損金算入の対象にはならないなど、船体価額と建造引当権価額とでは税務処理が異なるため、内航船舶売買に際しては、その内訳を取り決めておく必要がある。原告代表者自身も、濱田二が原告代表者に就任した以降は、本件船舶の売買以前から、内航船舶の売買に際し、船舶売買代金のうち船体価額と建造引当権価額とを明確に区分し、帳簿上明確に区分して記載していたことを認めている(原告代表者本人の平成六年八月五日付け本人調書の一五丁表一行目から同裏四行目)。

しかも、内航船舶の売買代金額を決定するに際しては、船体価額と建造引当権価額がその要素となり、(証人木村一樹の平成五年一二月一〇日付け証人調書の六丁裏七行目から、同一〇行目、同証人の平成六年三月一一日付け証人調書二項)、売買当事者は、船体価額と建造引当権価額の内訳について具体的な価額を提示して、売買代金額の交渉を煮詰めていくのが通常であって(証人小村進の証人調書の一丁目裏七行目から二丁裏三行目、同二〇丁表一行目から同裏一一行目、同二三丁裏四行目から二四丁表一二行目)、原告代表者自身も、本件売買契約当時、建造引当権価額の相場が一トン当たり二十四、五万円である、という認識があったと供述している(原告代表者の平成六年六月一七日付け本人調書の一三丁裏二行目から四行目)。

したがって、本件船舶の売買交渉に際しても、売主側(濱田二)、買主側(小村進)双方は、船体価額と建造引当権価額の内訳について、具体的な価額を提示して売買代金額の交渉を行い、船体価額と建造引当権価額の相場を考慮して、売買代金総額を九億五〇〇〇万円と決定したのであり、その内訳は、船体価額が三億二八〇〇万円、建造引当権価額が六億二二〇〇万円と合意したことが認められ、原告の前記主張は失当である。

3 総括

以上の認定判断によると、本件船舶売買代金の内訳は、乙契約書記載のとおりであり、船体価額が三億二八〇〇万円、建造引当権価額が六億二二〇〇万円であって、原告は、本件事業年度の確定申告に際し、その申告に係る圧縮特別勘定繰入額二億五一一三万三七四四円と、真実の船体価額に対応する圧縮特別勘定繰入限度額一五九三万八二四四円との差額、二億三五一九万五五六八円を過大に損金として計上したことが認められる。

したがって、原告の本件事業年度における法人税の所得金額は、確定申告額一億六七九八万四八四一円に、前記二億三五一九万五五六八円を加算した四億〇三一八万〇四〇九円であることが認められ、本件更正は適法であることが認められる。

二  争点2(重加算税賦課決定、青色申告証人取消処分の適法性)について

1  認定事実

証拠(項一五、乙一、五・六、証人小村進、原告代表者本人〔一部〕)によると、次の事実が認められる。

(一) 原告代表者の濱田二は、手元に甲・乙契約書を所持しており、本件船舶売買代金の内訳は、乙契約書の記載が正しく、船体価額が三億二八〇〇万円、建造引当権価額が六億二二〇〇万円であることを承知しながら、誤った記載がなされた甲契約書が手元にあることを奇貨として、原告の会計帳簿には、本件船舶売買代金の内訳を、船体価額が六億二二〇〇万円で、建造引当権価額が二億二八〇〇万円と虚偽の内容を記帳し、右売買代金内訳に基づき、平成二年一〇月三一日本件事業年度の法人税の申告を行った。

(二) 更に、濱田二は、平成三年二月頃、八幡浜税務署係官から税務調査を受けた際、乙契約書の写しも所持していたにもかかわらず、甲契約書の写しと甲契約書に基づき記帳した会計帳簿を示し、「甲契約書が本件船舶の売買契約書である。」旨説明し、係官から、乙契約書の存在を指摘され、「売買契約書が二通あるのはおかしい。」と言われたのに対し、乙契約書の存在を強く否定して、「本件売買に際して作成された契約書は甲契約書のみであり、本件売買代金の内訳は、甲契約書に記載されているとおりであって、船体価額が六億二二〇〇万円、建造引当権価額が三億二八〇〇万円である。」旨、虚偽の説明をした。

2  考察

前記認定によると、原告は、乙契約書を手元に所持し、乙契約書に記載された売買代金の内訳が正しいことを承知しておりながら、手元に、誤った売買代金内訳が記載された甲契約書も所持していることを奇貨として、甲契約書の売買代金内訳に従い会計帳簿に記載した上、本件事業年度の法人税の申告をしたことが認められる。

したがって、原告は、重加算税賦課の要件である「税額等の計算の基礎となるべき事実の一部を仮装したところに基づき、納税申告書を提出していた」もの(国税通則法六八条一項)に当たるとともに、青色申告承認取消の要件である「その事業年度に係る帳簿書類に、取引の一部を仮装して記載したもの(法人税法一二七条一項三号)に当たる。

よって、原告に対する本件重加算税賦課決定、青色申告承認取消処分は、いずれも適法であることが認められる。

第四結論

以上の次第で、原告の本訴請求はいずれも理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する

(裁判長裁判官 紙浦健二 裁判官 高橋正 裁判官 関口剛弘)

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